物流の24年問題。

 

物流関係者としてのアンテナを張っているせいかもしれませんが、この言葉を目にしない日は無くなってきました。

 

業界紙から一般紙、テレビやネットニュースまでいろいろな形で報じているこの問題。

 

「運べなくなるかもしれない」「届かなくなるかもしれない」「コストが上がるかもしれない」など不安を煽る言葉が並びますが、この問題の論点を正確に把握し、解決策を探ろうとする記事はあまりに少なく、騒ぎに違和感を感じている今日この頃です。

 

(よく宅配などのことでもワーワーいっていますが、そもそも黒ナンバーの軽貨物は対象外です)

 

 

確かに荷主目線では「荷物が届かない」ことが最大の懸念であることは間違いありません。

 

しかし筆者は、この問題で最も語られるべきことは、いかに運送事業者を存続させるか、という点であると考えています。

 

 

一運行3000円や5000円の値上げ交渉をよく聞くようになってきましたが、元請け主導のこの値上げの恩恵が下請け、孫請けに行き渡るのか。

 

もっと言えば、この値上げがどのように圧倒的多数派である中小・零細運送事業者の事業継続に役立つのか。

 

 

実際に値上げ交渉を行っている中間業者ですら、問題の本質を把握できていないように思えます。

 

 

運送事業者が荷主から収受する運賃収入は、運ぶ荷物の量や距離が変わらない限り、通常は変動することはありません。

 

今回の法改正の主眼は、端的に言えばトラックドライバーの労働時間を削ることに置かれています。

 

労働時間が少なくなれば運ぶことのできる荷物の量や距離が減ることになる。

 

これはつまり、トラックドライバーの給料を減らすことと同意と言えます。

 

もちろん過剰労働による悲しい事故を防止する目的もありますが、果たして給料が減ったドライバーが「働き方改革」の恩恵を受けて余暇を楽しむことなどできるのでしょうか。

 

 

例えば1日の拘束時間が16時間から13時間に削られたとして、「あとひと仕事」が出来なくなる運送事業者の収益全体の目減りをこの値上げで賄うことが可能なのでしょうか。

 

例えば大手ドレージ会社などでは、このような値上げ分を原資としてショート専門のドライバーを確保するなどの手法が取れるかもしれません。

 

しかし、ある程度の事業規模とシャーシプールなどのインフラを持つ場合に限られるでしょう。

 

空走距離を減らすため貨車マッチングのプラットフォームも増えつつありますが、そこにある求貨案件は条件が厳しいものも多いようです。

 

 

運送会社の企業努力、と言われることもあるかもしれませんが、荷主や元請け主導のお仕事で長時間待機や運賃外の荷役などに時間を取られ、とにかく既存の仕事を維持することに多くの労力を取られてきた事業者が多いのではないかと思います。

 

法令施行まで1年を切っていますが、危機感を感じる荷主・元請けにお願いしたいのは、この中小運送事業者の収益を目減りさせず、縮められた労働時間のなかで今までどおりの「もうひと仕事」を安全に継続できる体制を作っていただきたいということです。

 

そして中小の運送事業者様には、ドライバーの待遇を下げないよう何とか踏みとどまってもらいたい。

 

荷主主導の業界で苦しい思いをされていると思いますが、これだけ世の中が騒いでいけば、下からの突き上げで有利な運賃交渉ができるようになっていくのではないか、そう期待しています。

 

 

【追記】

 

誤解を恐れず言いたいことを言いましたが、筆者も元々はトラック業界の出身です。

 

20代の若輩時代から配車担当として長距離路線運行の自社・協力会社ドライバーに指示をする経験を長く積んできました。

 

まだスピードリミッターもなく、関東から中四国・九州・北東北・北海道など900キロ越えを普通にワンマンでこなし、時折夏でも色の濃い長袖しか着られない人や、事務所に入っても左手の軍手を外さない人もいた時代でした。

 

理不尽で辛い経験も多かったですが、何よりドライバーに敬意を示し、対等な仕事相手としてやり取りをすることでドライバーの信頼を得ていくことの大切さを学んだ、自分にとってとても重要な時期だったように思います。

 


積んで、走って、降ろす。

 


この、世の中に絶対に必要なことを、昼夜なく黙々とこなす屈強な男たちの誇りを守ってほしいと願っているのです。

 

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