刑法には様々な罪がされており、それぞれに刑罰が規定されています。

法務省の情報によると、死刑が法定刑に定められた罪は18種類ありますが、その刑罰の規定の多くは死刑を含んだある程度の範囲の刑罰が規定されており、裁判などによって酌量の余地が設けられています。

(例:刑法第199条 人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する、など)

しかしこの中で唯一、外患誘致罪は法定刑が死刑と明確に規定されています。

法定刑が死刑のみである犯罪は外患誘致罪だけなのです。


■刑法第81条(外患誘致) 外国と通謀して日本国に対し武力を行使させたものは、死刑に処する。


条文を読めば外患誘致がどういった行為を指すのかが分かります。

外患誘致罪は明治憲法下の明治13年に制定された刑法から存在しますが、この旧刑法での規定はより具体的なものとなっています。


外国に通謀して帝国に対し戦端を開かしめ又は敵国に与して帝国に抗敵したる者は死刑に処す (現代仮名使い)


つまり、国家に反逆して敵国と共謀し日本を攻撃する行為ということですね。


この外患誘致罪、長い歴史の中でいまだかつて適用事例どころか裁判で争われたこともありません。

唯一適用が検討された事例は、2次大戦がはじまる昭和16年、ソ連のスパイであるゾルゲと元朝日新聞記者の尾崎秀実たちによる諜報活動が発覚したゾルゲ事件ですが、その際も最終的には外患誘致罪による起訴は見送られ、容疑者たちは治安維持法違反など他の罪によって処罰されました。

この罪の適用が非常に繊細な理由は、この罪を適用することが個人の犯罪を規定するのみならず、敵国を明確に規定し国家として相手国に敵対に対する態度を明らかにするという意味をはらんでいるからでしょう。

いかに帝国憲法下の戦時中であっても、日ソ中立条約が締結された両国の関係性を鑑み、ソ連に対する姿勢は慎重にならざるを得なかったと思われます。


2022年12月26日、防衛省は海上自衛隊一等海佐が特定秘密を漏洩したことを発表しました。

漏洩した先はこの一等海佐のかつての上司であり元司令官で、目的はその元司令官が講演会などのネタにするために最新情報を入手したい、ということでしたが、安全保障に対する考え方があまりにも安易としか言いようがありません。

それでも、その情報の漏洩がどういったきっかけで「敵国」にとって有利に働き、日本の国益を損なったり安全を脅かすことになるか分かりません。


外患誘致罪が適用されるのを見るときは日本がいまだかつてない危機的な状況と言わざるを得ませんが、交戦権を放棄した日本が外患誘致されるとはどういうことなのか、考えるとそら恐ろしい気持ちになります。

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