今国会での成立を目指して審議されていた種苗法の改正法案が見送られることとなりました。

またまた芸能人のツイートが国会審議に影響を与えた、などと取りざたされていましたが、なぜ今回の改正案の反対意見が多いのか筆者には釈然としませんでした。


種苗法とは、日本の農産物の品種の保護や流通の安定化のために定められた法律で、昭和22年の制定以後、平成10年に全面的に改正が行われています。

今回の主な改正点は、種苗法に基づいて登録された品種の自家増殖を規制するというもので、この改正により日本で開発、改良された優良品種の海外流出に歯止めをかけ、育成者の保護の推進を目的としています。

ちなみに農産物の自家増殖というのは、簡単に言うと、できた作物から採取した種や株などから次の世代を育てるということを指します。

(参考:種苗法の一部を改正する法律案の概要 農林水産省HPより)


今回のこの法案改正の反対理由は主に、自家増殖を制限すると農家のコスト負担が多くなり、農業を圧迫し、ひいては日本の農業、食糧自給に悪影響を与える、というものでした。

また、種苗の供給をより国のコントロールに置くことによって、日本の種苗産業を圧迫するうえ、海外の種苗メーカーの参入を容易にし、日本市場を狙う国に優位な状況を作る、という意見もありました。


しかし、筆者のように田舎の百姓育ちでなおかつ国際物流に従事していると、これらの意見には違和感が感じられたのです。


まず種子の自家増殖について。

通常、我々がスーパーなどで目にする野菜などは、ほぼすべてがF1種と呼ばれるものですが、これは種子の取得のために人工的に交配されたものです。

生育や病気に対する抵抗力などの品質が均一化されたものですが、次の世代へ使用した場合品質にバラツキがあるため使用に適していないとされています。



一部の農家ではオーガニックや自然有機農法をうたい在来種の種苗から自家増殖を行うこともありますが、大量に生産される農産物の品質の維持と安定供給のためにはあまり現実的とは言えません。

つまり、農産物を市場に卸すことを生業とする農家の方で自家増殖を行っている方は少数であり、あまり反対派の方が叫ばれるようなコスト増は少ないのではないかと。

そもそも農家は作付けのために毎年種苗を購入している場合が大多数であり、さらに今回の法改正で新たに自家増殖が規制される品種はわずかであるということです。


次に海外の種苗メーカーの参入についてですが、輸入に関わったことのある方もあるかもしれませんが、日本で販売されている種苗の多くは日本のメーカーにより開発され、海外で生産されて輸入されています。

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現在の日本の制度では、病気や気候変動に強く、効率よく収穫でき、さらに美味しい農産物を長い期間と膨大なコストをかけて種苗業者が開発しても、種苗業者の収入は種苗の販売でしかありません。

今回の改正論争は種苗業者と生産者の問題を混同しているように思えます。

いろいろ調べてみましたが、日本の農産物の保護と、品種改良の面から我々の食生活を支えていただいている種苗家の方々の努力に報いるためには、今回の改正は必要なものではないかなと思えました。


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