現在、将棋界には8つのタイトルが存在します。
「名人」「竜王」「王位」「王座」「棋王」「王将」「棋聖」そして2017年に新たなタイトルとして認定された「叡王」。
一つのタイトルを取るためにも長いシリーズを戦い抜き、時には運も味方につけながら勝負に勝ち続ける必要があるわけですが、さらにそのタイトルを連続、または通算で獲得するという偉業を達成した棋士には「永世」の称号が付与されます。
「叡王」を除くすべてのタイトルの「永世」の称号を獲得した棋士が我々と同じ時代に生きています。
その名も、羽生善治9段。
1970年に生まれた羽生9段は、15歳の時にプロ棋士となり、その後1989年、29歳の時に、初のタイトル「竜王」を獲得しました。
その翌年、谷川浩二に「竜王」の座を明け渡すも、1991年に「棋王」のタイトルを獲得して以降、27年の長きにわたりタイトルホルダーであり続け、1996年2月の「王将」獲得をもって7冠達成という前人未到の偉業を成し遂げたのでした。
タイトル保持者の名は、その座にいる間はタイトルを冠して呼ばれます。
長年タイトル保持者として名前を呼ばれてきた羽生9段は、12月21日に行われた竜王戦第7局、最期まで粘りを見せるも広瀬章人8段に敗れ、ついにそのタイトル全てを手放し、「羽生9段」となったのでした。
しかし、タイトル保持記録27年という偉業は前人未到、不滅と言ってよいほどの偉業です。
歴代第二位の記録保持者、大山康晴でさえ、その記録は15年です。
羽生9段のタイトル陥落から戦国時代の様相を見せるとされる将棋界ですが、将棋界を脅かすのは棋士だけではありません。
AIの台頭です。
すでにチェス、囲碁でもタイトル保持者に勝利しているAIですが、将棋でもついに佐藤天彦叡王を電王戦で破るという偉業(?)を成し遂げています。
計算能力とミスのない定性的な判断をするAIに人間が遅れをとる時代がやってきているのでしょうか。
囲碁でも将棋でも、AIの基本的な学習方法は、基本ルールのみを教えたAI同士が膨大な数の対局を繰り返し、定石と最適解を導き出すロジックを蓄積することです。
そして、数日間から数時間の間に導き出されるロジックには、定石と言われる矢倉囲いや穴熊だけでなく、今までの歴史に登場しなかった定石も存在するそうです。
人類の数百年の歴史を、試行錯誤と定量的な判断によって数時間で凌駕してしまうわけですね。
考えてみると恐ろしいことです。
長い間その職にある人の経験や勘はかけがえのない物です。
しかし、その場その場の仕事のやり方としては、AIの判断に任せる時代がやってくるのかもしれません。
また、労働力が不足する時代がやってくることが懸念される現場で、業務の手順や作業品質の水準は均一に、また簡潔に設定することが求められます。
我々が働くあと何十年かの間で、ますます人類の在り方は大きく変貌を遂げるのでしょう。
いろんなことがAIにとってかわられることは間違いないでしょうが、その中で我々に残される価値とはいったい何なのでしょうか。
暖かさ?あいまいさ?ちょっとした間違いを起こすこと?人に物事を教育すること?
言葉にしてしまうとあまりにも儚い人間の能力ですが・・・
しかし、そこはそれ。
人間相手の仕事は人間によってなされている自負こそが我々自身の仕事に誇りを持つことにつながるのではないでしょうか。
明日もいい仕事をしましょう。
かの大山康晴も、無冠から56歳に「王将」に返り咲いています。
羽生9段の今後の活躍をお祈りしています。
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