昔読んだ絵本に、「たんたんタグボート」というお話がありました。
小さいけれど力持ちのタグボート「安兵衛丸」の港での生活を描いた絵本です。

 


子供のころ海に行って、大きな船の周りでこまごまと動き回って仕事をしているタグボートになんとなく憧れを覚え、興味深く船の着岸を時のたつのも忘れて見入っていたのを思い出します。


先日、水先人(パイロット)の話をしました。
このパイロットの仕事にとても関連深いのが、大型船の着岸作業にしばしば登場するタグボート(曳船)です。


タンカーやコンテナ船などの大型船は、着岸が近づき港湾内に入港すると速度を落としますが、船というものは速度が落ちると舵などによる運動性能が極端に低下します。

狭く交通量も多い港の中で、大型船が安全に離着岸できるよう、ロープでけん引したり船体で押したりして大型船の機動をサポートする役割を持っている船がこのタグボートなのです。


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タグボートは全長30メートル、排水量400トン程度の小さな船体に、3000~4000馬力という超強力なエンジンを積み、数万トンの大型船の機動を制御します。
また、馬力だけでなくその機動はアジマススラスターと呼ばれる360度旋回できるスクリューポッドで制御され、普通の船では考えられないような細かい旋回を行うことができます。
(戦車でいうところの信地旋回が可能です!)

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熟練したパイロットとタグボートとの連携により、海流や風の動きをつかみながら接岸する大型船は、接岸時のスピードは秒速数センチにまで抑えられると言われています。

当たり前に着岸している大型船ですが、このように人知れず熟練のプロ技が発揮されて事故なく港湾は安全に保たれています。


最近の大型船はサイドスラスターやバウスラスターといった、低速時の離着岸の機動を制御する補助装置が搭載されている場合も多いですが、まだまだタグボートとパイロットの力なくしては港湾地域の安全は保たれないと言えます。

今度海でタグボートを見かける機会があったら、その仕事ぶりとタグボートの常識離れした船としての能力に思いをはせてみるのはいかがでしょうか。


世の中にはいろんなマニアがいらっしゃいます。
下記の動画、筆者はフルで全部見てしまいました。
パイロットと2隻のタグボート「日光」と「剣」の無線交信の様子が収められています。
あまりにも繊細で細かい指示とその連携力には驚くばかりです。