太平洋戦争で初めて使用された核兵器は、都市を大規模に破壊し甚大な被害を与えるという非人道的な兵器として、通常兵器とは異なる概念で捉えられています。


当初、航空機で目標上空まで運搬され使用された兵器はその後の開発によりミサイルや原子力潜水艦からの発射という方式に切り替わり、報復戦力の生存性の向上でさらに重要な戦略的意味を持つようになります。


ケネディ大統領の下で国防長官を務めたロバート・マクナマラの提唱した相互確証破壊は、核先制攻撃を受けた国は残存する核戦力で相手国を確実に破壊する、という戦略で、核戦力の隠匿性、生存性がその概念の基盤をなしており、核戦力の増大を世界中の核保有国にもたらしました。

相互確証破壊を意味する Mutual Assured Destruction はその頭文字を取ってMADと揶揄されましたが、相互破壊を避けることが敵対する国同士であっても共通の利益であることから、その戦力の均衡が抑止力として働くと捉えられたのもこの時代からです。

そして、この抑止力としてのMADの概念は今もなお有効な戦略として考えられています。



近年においてはとん挫したSDI計画からの流れをくみ、純粋に防衛力を高めることで相手国の核戦力を無力化しようとするMD(ミサイル防衛)構想が取り入れられ、日本にもそのための装備が導入されています。

ミサイルが大気圏外を慣性飛行している状態(ミッドコース・フェイズ)にミサイルを破壊するSM-3や、弾頭が再突入した最終段階(ターミナル・フェイズ)に迎撃するPAC-3などがこれにあたります。


しかし、発射されたミサイルを迎撃する戦略に100%という確実性はなく、やはり撃たせないことが第一に優先されるのは言うまでもありません。

また、弾頭の速度が速いICBMやSLBM,そして従来の弾頭と比較にならない速度で飛来する極音速ミサイルなどに対してMD構想も必ずしも万全ではないのです。



12月14日、北朝鮮から「西海衛星発射場で13日22時41分から48分まで重大な実験を行った」との発表がなされました。

20191214at05S_p



これはICBMの燃焼実験だったとの見方が高く、もし7分間の燃焼を行ったのだとすれば想定されるミサイルの飛距離は大陸間を飛行するとも言われています。



核攻撃に対する核の報復を想定した時に、北朝鮮対アメリカに相互確証破壊というバランスは成立しえません。

あまりにも戦力差があり過ぎ、また北朝鮮にはアメリカを破壊するだけの戦力が無いのは明らかだからです。

しかし、たった1発の核戦力を保有し、それが使用可能であることを示すだけで世界の大きな脅威になりうることを北朝鮮は知っています。

そしてさらに、北朝鮮の後ろにひかえる2大国、一方は冷戦時代からの世界最大級の核保有国として今もその戦力を保持しており、またもう一方は移動式発射台や原子力潜水艦の開発を進め、相互確証破壊を成立させるだけの核戦力の生存性を高めつつあると言われています。


我々の平和な生活は、思っているよりも微妙なバランスの上に成り立っているような気がしてなりません。