今年の4月1日より商法が改正され、荷主は運送人(航空会社や船会社)に対して、引火性や爆発性などの危険性を有する貨物を積載する際には、貨物引き渡しの前にその詳細情報を渡すことが義務付けられることとなりました。


【荷送人の危険物の通知義務の新設】
改正商法 第 572 条(同条を準用する規定として改正国際海上物品運送法 第 15 条): 荷送人は、運送品が引火性、爆発性その他の危険性を有する物品であるときは、その引渡し の前に、運送人に対し、その旨及び当該物品の品名、性質その他の当該物品の安全な運送に 必要な情報を通知しなければならない。


通常、航空機やコンテナ船に危険性のある貨物を搭載する場合、荷主からMSDSを取り寄せ、該当するUN番号があるのかを確認し、それに応じた梱包や荷扱い、積載方法などの規定に従って輸送します。

そう考えると、今回の商法改正での通知義務の新設は不自然に思われるかもしれません。

しかし、こうした荷主の義務が改めて明文化されたのは、偶然が重なって起こってしまった不幸な事故の責任を荷主が負うことになった事例が過去に発生しているという背景があります。


2004年、日本でNon-Haz Chemicalとして申告され、ヨーロッパ直行航路の本船に搭載された貨物が、シンガポール出港後に発火し、船内での消火活動などにより鎮火したものの周囲の貨物や船舶、コンテナなどに損害を与えたという事故が発生しました。

この貨物は実は高温化にある程度の時間さらされても発火や熱暴走は起こらず、安定した物性との実験データに基づき、UN非該当、一般品としてブッキングされ、船積みされていました。

しかし、偶然にもこのコンテナはコンテナ船の一番底、そして一番端に積載されたために、何週間もの長期間、高温の環境にさらされることとなりました。

コンテナの積載された場所の近くには燃料タンクがあり、加熱された状態の燃料であるC重油の熱が常に伝わる場所で想定外の期間、高温にさらされ、ついにその貨物は自己反応を始めてしまい、水などで冷却をしないと鎮火しない状況が発生したのでした。


荷主にしてみれば一般常識で考えられる状況での物質の安定性、そして船底の燃料タンク近くに積載されるという偶然が重なって起こった事故であるため、免責を主張しました。


しかし、最終的にその事故の過失責任は荷主にあるとの判決が下されたのです。


船舶での過失責任が下されると、その賠償請求はそれはそれは酷い状況になります。

周囲で被害を受けた貨物の荷主、コンテナや船舶の所有者、消火作業により漏損を受けた荷主、そして損害を受けた者から保険求償を受けた保険会社など、ありとあらゆる方面からの損害賠償請求をうけることになります。


まして、一般品だと思ってブッキングし、船会社もそれを承知で受諾し、偶然で起こった事故の責任を負うことになったことは悪夢以外の何物でもないでしょう。


しかし、そこに荷主の責任を認めた判例にこの問題の重要性が隠されています。


荷主は正確なMSDSを提供するのはもちろんのこと、この事故のようにUN非該当だとしてもそのリスクは必ず運送会社に情報を共有しなければなりません。

また、船会社は古来からの商慣行や条約により偶発的な事故などの免責事項により非常に手厚く守られているのに対し、何かが起こったときの荷主は恐ろしいほどに無力です。

保険には必ず入りましょう。


改正商法に関するわかりやすいパンフレットは法務省のホームページで公開されています。

また、かつて起こったこの不幸な事故については、マックス法律事務所様のホームページにその詳細な判例が資料として公開されています。

船名や荷主名、取り扱ったフォワーダーや原告、損害賠償額などがすべて出ていますので、ご興味あればどうぞ。
※こちらは東京地裁の1審の判例で、原告の請求が棄却された内容となっています。
こののち上告され、東京高裁の2審で被告に過失の責任が負わされることとなります。



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