おつなかさんって誰でしょう?


国際輸送を取り扱う業界でしばしば耳にする「おつなかさん」。
漢字で書くと「乙仲さん」。けっして妖怪べとべとさんとは関係ありません。

なんとなく通関業者を指すようなニュアンスのこの言葉、本来は現在の物流業者の業態にキッチリハマる言葉ではありません。

現在の「乙仲さん」が取り扱う業務は、集荷や梱包、一時保管、キャリア(船会社やフォワーダー)への荷渡しや通関、場合によってははしけの手配など、港湾を中心に一連の輸送付帯業務を取り行う海貨業者ということになっています。


しかし、通関業者を指したり、倉庫を指したり、時にはフォワーダーを指したりするこの言葉、いったいなぜここまでいろいろな意味で使われ、なおかつ現在の法制度で何の定義もないのでしょうか?

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乙仲の言葉の起源を調べると、1939年の海運組合法の制定にまでさかのぼります。


この法律では、汽船海運業や船舶貸渡業、海運仲立業などの海上運送事業が業態ごとに定義られました。
そのなかの海運仲立業については、不定期船への仲立をする甲種海運仲立業と、定期船への仲立をする乙種海運仲立業に定義は細分され、それぞれ貨物の集荷からはしけの手配、本船への積み込み荷役などを行っていました。


この「乙種海運仲立業」こそが「乙仲」の起源とされています。


当時設立された業者には「~回漕(廻漕)店」という名称が多く、いまでも社名から設立の歴史背景をうかがい知ることが出来ます。


戦時統制法であったこの海運組合法は戦後1947年に廃止され、その法律で定められた海運業の業務形態は法的根拠を失うこととなりました。


その後、1949年に当時の国際基準に倣った新たな法律「海上運送法」が制定され、「海運仲立業とは物品海上運送または船舶の貸渡、売買もしくは運航の委託の媒介をする事業」と定められました。
業態としての定義は海運組合法から海上運送法に引き継がれましたが、「乙仲」という言葉は、甲種乙種の類別の意味なしとの根拠から引き継がれず、法的に乙仲という言葉はここに消えてなくなったのです。


1951年に制定された港湾運送事業法の中で港湾運送事業は登録事業として定義され、一般港湾運送、船内荷役、はしけ運送、沿岸荷役、いかだ運送の5種に区分されました。
この中の一般港湾運送が取り扱う事業には、ステベ、一貫元受、海貨、その他の4区分があり、この一般港湾運送が取り扱う業務全般の呼称が「海貨」として定着していきました。


そして、戦前「乙仲」として港湾運送を行っていた業者の多くが海貨業に登録をしたために、「海貨業」=「乙仲」という関係が定着してしまったのです。


海貨業の定義が近代改めて行われ、海運仲立業(現在のフォワーダーといえるでしょう)と明確に区別され、乙仲呼称の廃止申し合わせが港湾の組合から提案されたりしても、この数奇な運命をたどって脈々と語り継がれてきた「乙仲」という言葉はしぶとく生き残りました。


乙仲をどの場面で使うかは人それぞれですが(自分にとっては航空、海上に関わらず通関業社=乙仲というイメージが強いです)、明確な意味はありません。


関連する業者間の会話の中で通じ合えさえすれば十分な言葉であり、明確な意味を規定する必要はない、と今回改めて感じました。

それとは別に、港湾関係の歴史や法制度の変遷について調べてみるのもなかなか面白そうだとも思いました。
日本独特の歴史を垣間見ることができそうです。